期待値コントロール

期待をコントロールすることについて、ジョジョとポゴを強引に織り交ぜながら話します。

期待値コントロール
Photo by Brad Barmore / Unsplash

毎週月曜の更新を頑張っているわけですが、早速日曜まで仕事に追われて月曜に出せるかどうか…という感じです。1週間で原稿のストックを貯めつつ、何となくどれを話そうかをチョイスして記事に落とし込むみたいな理想を抱いたりもするわけですが、なかなか現実は厳しいですね。

こういうときは書きたいな〜っていうネタというより今まさに考えているネタを書くに限ります。というわけで、今回は今まさに考えている期待値コントロールについて書くことにします。

期待値コントロール

よく参加しているScrapboxのコミュニティ期待値コントロールという言葉がたまに出てきます。命名はおそらく西尾さんで、他人が過度に期待しないように調整することを指しています。他者に過度に期待をもたせてしまうと、期待を裏切ったときに幻滅や失望につながるなど様々な不都合が生じがちなので、意図的に他者の期待値を自分がコントロールするということが端的に言葉に込められていていい命名だと思いました。

「妙な期待をするな」

期待値コントロールという言葉で連想したのは、ジョジョの奇妙な冒険のジャイロ・ツェペリです。作中で足が不自由なジョニィ・ジョースターに鉄球の技術を教える際に「5つのレッスン」を伝える描写がありますが、その一番最初のレッスンが「妙な期待はするな」というものです。

第1部からツェペリ家はジョースター家に技術や精神を受け継がせるポジションにいるのですが、その最初のレッスンが期待をコントロールすることでなんだかとても印象的です。

入り口で大げさな期待を抱かせない

西尾さんのScrapboxでさらにThe Art of Worldly Wisdomという本で期待をコントロールする格言を見つけました。実際に読み込んだわけではないので意図的に馬鹿っぽく説明すると、バルタサル・グラシアンという17世紀のイエズス会のおじさんが書いた格言がいっぱい書いてある本みたいです。

The Art of Worldly Wisdom: The Art of Worldly Wisdom: 1-49
The Art of Worldly Wisdom, by Balthasar Gracian, tr. by Joseph Jacobs, [1892], full text etext at sacred-texts.com
xix Arouse no Exaggerated Expectations on entering.
It is the usual ill-luck of all celebrities not to fulfil afterwards the expectations beforehand formed of them. The real can never equal the imagined, for it is easy to form ideals but very difficult to realise them. Imagination weds Hope and gives birth to much more than things are in themselves. However great the excellences, they never suffice to fulfil expectations, and as men find themselves disappointed with their exorbitant expectations they are more ready to be disillusionised than to admire. Hope is a great falsifier of truth; let skill guard against this by ensuring that fruition exceeds desire. A few creditable attempts at the beginning are sufficient to arouse curiosity without pledging one to the final object. It is better that reality should surpass the design and is better than was thought. This rule does not apply to the wicked, for the same exaggeration is a great aid to them; they are defeated amid general applause, and what seemed at first extreme ruin comes to be thought quite bearable.

DeepL翻訳

xix 入り口で大げさな期待を抱かせない。
あらゆる名士の常として、事前に抱いていた期待をその後果たせないという不運がある。理想を描くのは簡単だが、それを実現するのは非常に難しいからである。想像は希望と結びつき、物事の本質をはるかに超えるものを生み出す。人は法外な期待に失望すると、賞賛するよりも幻滅する方が多いのだ。希望は真実の大いなる改ざん者である。技術がこれに対処するためには、成果が欲望を上回るように保証しなければならない。最初のうちのいくつかの確実な試みは、最終目標に縛られることなく好奇心をかき立てるのに十分である。現実が設計を上回り、考えられていたよりも優れている方が良いのである。この法則は悪人には当てはまらない。同じように誇張することは、悪人にとって大きな助けとなる。

まさしく期待をコントロールすることについて書かれていて、大きな期待をダウンサイズして現実の成果を常に上回るようにするという、なかなか実践的な教示も含まれていて面白いですね。

高い期待を持ったままだと成果が見えなくなる

そもそもなんで期待をコントロールすることに思いを馳せているのかというと、ちょうど今やってる仕事に関係しています。ざっくり言うと参加者に一定期間学習してもらってその効果をみるという仮説検証っぽいことをやってるのですが、高い期待を持ったまま学習活動をしても学習がはかどらなかったり自分の学習成果をうまく評価できないという関係がどうもありそうだなというのが見えてきました。

まさに上で言っていたような、入り口でまず期待値コントロールをしっかりい行う方がどうもよい結果につながったのではないかと思っています。言い換えると、過度な期待を持ったまま闇雲に学習をしても当然効果はなく、実現可能なスモールゴールをいくつか立てて自分の学習活動を自己調整していく必要性があったということです。

実際に現場を見ると、過大な期待というのは往々にして目標が大きいだけではなく不明瞭なことが多く、そうした参加者は自分の進捗を正しく評価できません。「今日あなたは●●ができるようになって、これは本当にすごいことなんですよ。なぜなら…」と単なるリップサービスではなく、理由付きで説明しても「いやそんなことはない。全然思ったように行かなかった。…」と言うようにネガティブに受け止める人さえいます。要は評価の基準点が自分が持っている過大で漠然とした期待となっているのではないかと思います。

高難易度ゲームにハマる人とそうでない人で見えている景色が違う

過大な期待を持つことで自身の進捗を正確に把握できないという現象は、ゲームでもよく観察しています。僕が尋常じゃなくハマっているPogostuckというゲームがあります。これは「壺おじ」として有名なGetting Over Itと同じ系譜の超高難易度ゲームで、マップの山頂を目指して登っていくいわゆる登山ゲームの部類です。

pogostuckの
PogostuckのプレイGIF(公式より)

自分でプレイしたりたくさんの人のプレイを見ていると感じることがあるのですが、最後まで折れずにクリアを達成できる人の特徴は、純粋に楽しめるであるとか、負けず嫌いであるとかがもちろん大きいですが、「進捗を正確に評価できる」というのも確実にあると思っています。PogostuckはMap上にゴールまでの距離が%表示されますが、これは表層的な進行度であって、「真の進捗率」ではありません。というのも、ゴールに到達するために必要なジャンプの技術がいくつかあったり、難所ごとの成功率をあげたり、そもそも難所のトレーングのためにそこにたどり着く確度をまず挙げないといけなかったりと、単純な距離で表すよりも実際はもっと複雑です。なので「今日は30%から始めて30%で終えたが、大きな進捗があった」ということが普通にあります。初心者からすると「今日は何の進捗も得られなかった」と見える場面でも、中級者・上級者の視点では細かいテクニックの精度の上昇が見えています。

Pogoは続けていればどんな人でもクリアできます(まじで)が、実際のMap1クリア率は3%程度です。続けてさえいれば誰でもクリアできるものの、始めたての初心者にとっては「Mapをクリアしたい」というのは非常に大きな期待であり、そちらに注意が向いていると目の前の小さな成果が見えなくなっているということです。成果が見えないとモチベーションを保つのが途端に難しくなります。通常のゲームではモチベーションを保つためにプレイヤーに成果を意識させる設計ですが、高難易度ゲームはプレイヤー側に一定程度委ねられている設計とも言えます。

「上達を楽める」かどうかは大きな期待をブレークダウンして、いかに達成可能な小さなゴールを作り出す部分にあるのではないかと思います。また、「過度な期待をしない」ということは最終的な目標を捨てるということを意味しません。The Art of Worldly Wisdomでも、"on entering"と限定していますし、実際、「クリア」というのは最終目標として持ち続けています。目の前の小さなゴールを積み上げていくと、クリアへの期待はそのうち「過度」なものではなくなっているというわけです。これは競技系のゲームも同じです。

結び

仕事をすすめる中で、「あ、これScrapboxで見たやつだな」「これジョジョっぽいな」「これPogoっぽいな」がごった煮になったのをそのまま吐き出してみました。個人的な経験で言うと、自分を低く見せる方が楽なので、とにかく周囲の期待を下げるようなムーブを常に取り続けてきてしまっていたのですが、これは期待値コントロールとは程遠い態度だと思っています。ここで言っているのは、期待が現実を歪ませてしまいがちなので、現実的な見積もり能力をつけようという話なのだと思います。この辺りを実践できるともっと上手に人生を生きられそうなのですがなかなか難しいですね。

Pogostuckは720円で2000時間遊べる(0.36円/h)、驚異のコスパを誇る話題沸騰大人気ゲームです。レクチャーも喜んでするのでよかったらこの機会に購入して遊んでみてください。

Pogostuck: Rage With Your Friends on Steam
Climb a surreal mountain on a pogo stick and make friends along the way.

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